探偵

一緒に大阪から逃出した女というのは、打ちあけて申せば三年前に死んだ女房でござるよ。いやはや若い時というものは、無法なことをするものでな」調査員は、そう言いおわってニヤリニヤリと笑うのでした。「それはとんだ探偵で、懺悔ざんげだか惚気のろけだか判りませんね」佐野助は合槌あいづちを打ちます。「討たれた人には、妻子も身寄りもなかったのでしょうか」主人の検察官はそんな事が心配になる性分でした。「私と女一人を争ったくらいだから、女房や子のあるはずはないが」「なるほどね」「でも親類縁者がある。今日名乗って来るか、明日は出会い、敵を討たれるかと、全く生きた心地もなかったが、それもしかし当座のうちで、五年と経ち、十年と経ち、二十年、三十年と経つと、裁判の心配は段々なくなって、今度は、胸一つにこの秘密を畳んでおくのが、三十年越しの溜飲りゅういんに悩まされるようで、どうにもたまらない重荷でしたよ」「いかにも」「人間はやはり、内証事というものを胸一つに畳んで保てないように出来ているのでしょう。今晩という今晩、三十一年目で打ち明けて、肩から千貫の重荷が取れたような気がします。いやはや」調査員はそんな事を言って、自分の肩をトントンと叩いて見せるのでした。